『プリズナーNo.6』を見た

私が高校生の頃「海外の古いTVドラマで、すごくシュールで今でもカルト的な人気がある作品」とラジオで紹介されたのを聴き*1、それ以来いつか見てみたいものだと思っていたのであった。その後40年近い時が流れ(!)、スーパードラマTVというドラマ専門チャンネルスマホ向けに始めた「スーパードラマクラシック」というサブスクリプションサービスで配信されるのを知ってさっそく加入……はせずに、とりあえずアプリだけダウンロードしておいたのだけど、去年の暮れに突然「サービス終了のお知らせ」が届いたのであった。がーん。年内に加入すれば2月末の配信終了まで1か月分の会費で見られるということで慌てて登録し、ようやっと見始めた次第。

”The Prisoner”(原題)は、1967〜68年にイギリスITVで放映された1話完結全17話のドラマで、主演はパトリック・マクグーハン。主人公(話の中でイギリスの諜報部員であったらしいことがわかる)が何かに怒って上司(とおぼしき男)に辞表(みたいなもの)を叩きつけ、自宅で出発の支度をしていると、何者かに鍵穴から催眠ガスのようなものを部屋に注入されて気を失ってしまう。目がさめると彼は見知らぬ村にいて……というのが第1話の導入である。これが2話以降のアバンタイトルで繰り返され、タイトルのあとに前の記事で引用したナレーションが流れる。No.6は毎回<村>から脱出を試みるが、<村>の管理者であるらしいNo.2(毎回変わる)により阻まれる。ナレーションの中でNo.2は「情報を吐け」と主人公に迫るが、それがいったい何の情報なのかは明らかにされず、「自分を番号で呼ぶな」と叫ぶ主人公の名前も劇中には出てこない。

といった具合に、物語の細部は抽象的で寓話めいた雰囲気で、なんとなく『不思議の国のアリス』を連想させる。<村>の一般住民はたいていボーダーのシャツを着ていて、会話や反応が単純というか幼稚な感じなので、主人公はまるで子供の国に迷い込んだようにも見える。また<村>の運営(管理)をしているらしいNo.2やその部下たちはジャケットか白衣姿で、秘密基地のような場所で<村>のあちこちを監視したり悪巧みの計画をしたりしている。そことは別に床から椅子がせり上がってくる仕掛けのある(どうやらNo.2専用らしい)部屋があり、No.6はしばしばこの部屋でNo.2と口論をしたりもてなしを受けたりする。その際No.2のために雑用を引き受ける侏儒の執事がいるが、彼は一言も喋ることはない。

住民の住む部屋にはスイッチを切ることのできないラジオがあり、また外には田舎の有線放送みたいなスピーカーがあって、始終音楽やらお知らせを放送している。そして屋外屋内を問わずいたるところに監視カメラが設置されているらしく、No.2のいる部屋から常にモニターすることができるようになっている。『1984年』型の典型的なディストピアなわけだけど、こういう管理社会のイメージって『1984年』以前からあったものなんだろうか。

No.6は第1話でさっそく<村>から逃げ出そうとするが、そのとき森の中を通ると、そこに置いてある人間の頭部の石膏像(?)が自動的にNo.6の方を向いてきて、つねに監視しているようである。そしてボートを奪っていよいよ海に出ようとすると、海の底から泡のようなものが浮かんできて水面で白い風船に変わり、その風船の不思議な力で逃亡者はついに外に出ることができない……。

各話のサブタイトルは以下の通り。

1 地図にない村 Arrival

2 ビッグベンの鐘 The Chimes of Big Ben

3 A.B.&C. A.B.and C.

4 我らに自由を Free For All

5 暗号 The Schizoid Man

6 将軍 The General

7 皮肉な帰還 Many Happy Returns

8 死の筋書き Dance of the Death

9 チェックメイト Checkmate

10 No.2旗色悪し Hammer into Anvil

11 暗殺計画 It’s Your Funeral

12 反動分子 A Change of Mind

13 思想転移 Do Not Forsake Me Oh My Darling

14 悪夢のような Living in Harmony

15 おとぎ話 The Girl Who Was Death

16 最後の対決 Once Upon a Time

17 終結 Fall Out*2

さて、待望久しかったこのドラマを実際に見てみてどうだったかというと、期待に違わぬ傑作……とは、残念ながらならなかったのであった。まあこれに限らず昔のドラマを今あらためて(歴史的評価を抜きに)見てみると、どうしても「ちゃちい」とか「ショボい」と思ってしまうものだけど、この作品の場合それに加えてそもそも作りが雑というか、素人っぽいようなところが目につくのです。例えば第1話で、白衣姿の博士が主人公に何かを手渡そうとする場面があるのだが、手渡す瞬間にカットが変わり切り返して博士を背後から捉えた画面になると、ブツを持っている博士の手が右手から左手になってたりする。これはまあ明らかなミスなんだけど、ミスとは言わぬまでも、ストーリーに直接関係しないアクションシーンが延々続いたり、話の展開が強引というかいい加減だったりするのがしょっちゅうである。昔のテレビドラマだからしょうがないのかという気もするが、同じく「スーパードラマクラシック」で1話だけ『ミステリーゾーントワイライトゾーン)』を見てみたら*3、こちらは古風ではあるがたいへんオーソドックスなきちんとした作りで、やっぱりこれは脚本や演出の腕によるとしか思えないのであった。しかしamazonのレビューでは傑作という評価が大半を占めていて、ちょっと不思議な気分。ユニークな作品だと言うのは認めるけど、そんな大したものかいな?

それぞれの話の中では、なぜか一旦脱出に成功してしまう第7話「皮肉な帰還」が面白かった。ロンドンに戻ったNo.6は、かつての自分の家の新しい居住者の女性や元の職場の協力を得て<村>の所在地を特定しようとするが、確認のため飛行機で戻ってみると再び捕らえられてしまい、そこで出迎えたのはロンドンの自宅で会った女性だった、という話。余計な説明やネタばらしがなくスパッと終わって小気味よかった。

シリーズ後半になるとネタ切れなのか作家が飽きてきたのか、変則的な話が多くなる。13話「思想転移」は表題の通りNo.6の思想や人格が別のスパイと入れ替えられ、そのスパイがイギリスに戻って諜報活動をするという普通のスパイもののような話で、マクグーハンの出番がほとんどない。14話「悪夢のような」では説明もなくいきなり西部劇が始まったり、15話「おとぎ話」もNo.6が普通にロンドンでスパイの仕事をしている(それぞれ結末に種明かしがある)。とくに15話はちょっとコミカルな味付けをしてあったりラストシーンに子供が出てきたりして(このエピソード以外に子供はでてこないのだ)かなり異色。ただしそんなに面白いというわけでもない。

16・17話では、いよいよシリーズの風呂敷を畳むべくNo.6とNo.2の対決が描かれる。16話でのNo.6が催眠術みたいなもので幼児期の記憶の中に戻されたり、17話で奇怪な面をつけた<村>の議員たちの前で不思議な演説をさせられたりする場面がきわめて演劇的な作りで、個人的にはこういうスタイルを全体に貫いたほうが、中途半端にリアルっぽい装置や仕掛けを出すよりもよかったんじゃないかなあと思いました。その後No.6はついにNo.1と対面することになるが、実はNo.1は(今まで一言も喋らなかった)あの執事だった! とか、あるいはNo.6自身だったのだ! なんていうオチを期待したがそんなことは全くなく、なんか肩透かしを食らった気分だった(あっネタバレだ)。

見る前にWikipediaをみてみたら14話の吹替えの声優の1人に山田康雄がいたので楽しみにしていたのだが、劇中ではほとんど喋らない役でがっかりした(オチのところでちょっとだけ台詞がある)。またこの人物は最終話で再登場するが、その時は声優がなぜか愛川欽也に変わっている。どういう事情があったのか知らないけどなんでこんなことしたのだろう*4

日本での放映時にはだいぶカットされたらしく、その部分は吹替えがなくて字幕で補われている。そのかわり(というのも変だけど)当時の吹き替えで今では不適切とされる台詞が例によってカットされ無音になっているので、結局われわれは「完全版」を観ることはできないのだった。あんまりしょっちゅう無音の台詞が出てくるので、そんなにキチガイを連呼してたのかしらと思ったら(前出のamazonのレビューによると)「パン屋」なんていう台詞までカットされているらしい。なんでだろう?

つい長々と書いてしまった。やっぱりこういうのは大傑作! という作品より、ちょっと期待はずれな方がいろいろ言いたくなるものである。そう考えると、十分面白いドラマだったと言えるのかもしれない。

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執事のひと(アンジェロ・マスカット)

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             

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山田康雄愛川欽也が声をアテたアレクシス・カナー。ちょっと「時計じかけ」ぽい

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第2話・16話・17話でNo.2を演じたレオ・マッカーン。この3人とNo.6が最終話で<村>を破壊しロンドンに帰還する。

 

*1:たしか「渋谷陽一サウンドストリート」である

*2:Wikipediaによるとこれは本国放映時の順番で、日本での放送はちょっと違っているそう

*3:s1ep1「そこには誰もいなかった」

*4:と思っていたら(またまたWikipediaで確認すると)役者は同じだが14話と17話では役名が違っているみたい。とするともともとの制作者の意図が???ということになる。