巨人と玩具、あるいは半世紀前の表現について

このあいだTVをつけっぱなしにしていたら、BSで『巨人と玩具』という古い邦画が始まった。うちのTVはNHKBS放送をつけてしばらくすると、なぜか画面の隅に注意書きのようなテロップがあらわれて*1それが出ている間は映像の一部が隠れてしまってちゃんと見られなくなるので、面白そうな映画などをやっていてもきちんと見るのは諦めているのである。それでこの映画もただ流しっぱなしにしていただけなのだけど、あとから検索してみたらわりと良い評価を与えている文章がいくつか見つかったりして、めげずに見とけばよかったカモとちょっと後悔したりした。

映画『巨人と玩具』は1958年の大映作品で、監督は増村保造、脚本は白坂依志夫。出演は川口浩高松英郎野添ひとみ他。開高健の原作(1957年)は高校生のころ読んでたいへん面白かったのを覚えている。読み直したくなって本棚を探してみたが、実家に置いたままになっているらしく見つからなかったので図書館に行って新潮社『開高健全作品 小説 2』を借りてきて再読した。

お菓子メーカーの宣伝部で働く主人公とその上司、それに販促キャンペーンのキャラクターに起用される新人タレントの女性を中心に、業界の販促競争の様子がいささか戯画的・寓話的に描かれる。さすがサントリーの宣伝部にいた作者なので、ビジネスの現場の描写は大変リアルで50年の年月を感じさせない(というか昔も今もずっと同じことやってるってことだよなー)。営業部員が、売上の悪い理由を毎月の会議ごとにでっち上げるところなど(初めて読んだときは多分ぴんときてなかったろうと思うのだけど)あーあるあるという感じである。また、

……いざ話が内定して値段の交渉に入ろうとすると、いきなりソロバンを振って
「さあ、ほんなら喧嘩しまひょかいな」
と大きな声を出し、ニヤリと笑う。私は彼が大阪弁を使うときはどれほど用心してもしすぎることがないと思っている……

なんていう場面は、作者がみずから実際にやっていたことなんだろうなあと思わせて、面白い。

話の中心になる3人が実在感たっぷりにリアルに描かれるのとは対照的に、彼らが相手にする会社の重役たちはただ「老人」としか呼ばれずほとんど人間ならざるもののように描かれたり、商品の生産や流通の様子がなにか巨大な生物の活動みたく描写されなかば神話的な雰囲気を帯びていたりするのも非常に効果的である。

じつは私は開高健の作品はこれのほか初期のものを2,3冊を読んだきりだったので、「酒と食と釣りを愛する行動派作家」というステレオタイプなイメージにひきずられていたのだけど、久しぶりに読んでみて意外なほど繊細で叙情的なのにびっくりしてしまった。それに圧倒的に文章が上手い。いや、大作家に向かって何言ってんだという話ですが。

さて映画の方、前述のとおりちゃんとは見ていないのだけど、タイトルバックに流れる 〽ドコドンドコドン太鼓を鳴らせ〜 という歌を聴いて「あっ……」とヒいてしまったというのも事実なのです。*2この映画の公開当時こういうのがカッコよかったのか、それともわざとぶっ飛んだ面白さみたいなものを狙ったのか見当がつかなくて困る。原作が題材といいテーマといい十分同時代の小説として通用するのにくらべて、映画のほうに感じるこの感覚って何なんだろう? 「時代と寝る」みたいな言い方だけじゃどうも納得できないんだよなあと、ちゃんと見てもいない映画について埒もない考えに耽ってしまったのでした。

*1:コレを読まれた方、お願いだからチクったりしないでね

*2:https://www.youtube.com/watch?v=FEzRWZ8kA3g これは映画の終盤の場面なんだけど、この歌です。