スティーヴン・ダルドリー『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』

amazonプライムビデオにてスティーヴン・ダルドリーものすごくうるさくて、ありえないほど近い』鑑賞。

911で父親(トム・ハンクス)を亡くした少年(トーマス・ホーン)が、父の遺した「鍵」の探索を通じて恢復/成長してゆく……というようなストーリー。

主人公は実はアスペルガー症候群で、見終わったあとの感想も911というより発達障害についての映画といったほうがいいような印象。発達障害者特有の行動がすごくあけすけに描かれていて、見ていてちょっとハラハラするところがある。金庫のたくさんある工場みたいな場所で、癇癪を起こして置いてあった鍵をぶちまけるところとか「そんなことしたらダメだよー」という感じ(同行するじいさんも「STOP」と止めようとする)。工場のおっさんはよく怒らないもんだと思った(これは結末に種明かしがあるのだけど)。

少年の探している「鍵穴」が本当に父親の遺したメッセージの手がかりになったりしたら、ストーリー全体が完全にお伽話になってしまうわけで、そうならないようにどういうふうに着地するのかというのが中盤からの個人的な興味の中心になった。あるいはたとえば「ついに鍵穴は見つからず、すべては徒労に終わる」という不条理文学みたいな結末もありうるけれど、それではさすがに救いがなさすぎるだろうしね。実際はまあまあ納得できてある程度カタルシスもあるところに落ち着いて、ひと安心であった。しかしこういうのは、なんだか映画の見方としてちょっと偏ってる感じが我ながらしないでもない。

題名の「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」Extremely Loud & Incredibly Closeというのは、少年がこの鍵の探索をまとめたノートにつけるタイトルなのだけど、どういう意味なのかちょっとよくわからない。*1また、父親の最後のメッセージの入った留守電をついに母親に聞かせないままなのだけど、これにはちょっと違和感が残る。すべての謎や疑問が映画の中で解決されるべきだとは思わないけれど(だから老人が口がきけなくなった明確な説明がなくても特に気にならない)、留守電に関してはなんらかの決着が必要なんじゃないかなあ。中途半端にほったらかしという感じがする。

口がきけず、筆談で主人公とコミュニケーションをとる老人をマックス・フォン・シドーが演じていて、貫禄があったり古老としての叡智を見せたりするわけでもないのにカッコいい。さすがのマックス・フォン・シドー力(りょく)。母親のサンドラ・ブロックは前半あまり出番がないのでもったいないキャスティングだなーと思っていたら、クライマックスにしっかり見せ場がある。しかしこの人、いつの間にこんなに演技が上手くなったのかしらというほど堂々とした芝居だった。ほかにおばあちゃんのゾー・コールドウェル、最初のブラック氏のヴィオラ・デイヴィス、ドアマンのジョン・グッドマンらがよい。そういった人々にくらべると、トム・ハンクスはいつものトム・ハンクスであんまり印象に残らない。

音楽(アレクサンドル・デスプラ)が、全篇ほぼ途切れずに流れているのにうるさくなくてよい。最初のクレジットタイトル(題名しか出ない)がきれい。あとスピルバーグの『宇宙戦争』にも引用されていた夥しい尋ね人の貼り紙の壁というのは、やっぱりちょっと言葉にならないものがあるなあと思った。

主人公がつくるブラック氏のリストの中に「カレン・ブラック」という名前がありました。

この映画の予告篇が以前勤めていた書店のプロモーション用のモニターで一時期くり返し流れていて、それ以来なんだかずっと気になっていた映画なので、見れてよかったです(幼稚な感想)。

参考になったレビューが二つ。とくに「聖書が下敷きになっている」という指摘は、不案内な人間にはありがたい。原作の小説はいろいろ仕掛けのある本らしい。
http://d.hatena.ne.jp/asaikeniti/20120301#1330595703
http://starspangledman.hatenablog.com/entry/2016/05/10/101423

*1:鑑賞後ほかの人の批評や感想を読んでいて、これは家族(母親)のことを示しているのだというのがいくつかあったのだけど、なんだかそうじゃない気がするんだよな