『ゴジラ』旧作を予習するのこと
9/1の映画の日に『シン・ゴジラ』を見に行くことにしたので、huluに入り直して*1旧シリーズを何作か見直しておくことにしたのだった。
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さてそれから20年以上経って(あれま)あらためて見てみたわけですが、まず感じるのはやっぱり全編を覆う極度の緊張感である。ことに破壊され、蹂躙される都市のイメージの生々しさと、画面に現れるゴジラそのものの生々しさは、のちのシリーズには見られないものだと思う(いや『ゴジラ対ヘドラ』よりあとは見てないんだけど)。そう、初代はとにかく生々しい。
しばしば引き合いに出されるのは国電の乗客の男女の「また疎開かあ」「せっかく長崎の原爆から命拾いしたのに」という会話や、幼い子供を抱いた母親が松坂屋の陰で「もうすぐお父ちゃんのところに行けるからね」という場面などが有名だけど、はじめの方で、遭難した漁船の乗組員の家族が当局につめよる描写なんかも、のちの怪獣映画にはあんまり出てこないよなあと思った。
つまり「怪獣映画」というジャンルがまだちゃんと成立していないので、とにかく考えうるすべての要素を描き切ろうという、決意というか覚悟が感じられるのである。だから乗組員の家族やら、国会での論戦やら、ゴジラを生かすか倒すかについての志村喬と宝田明の対立やら全部入りである。隻眼で孤高の科学者(マッド・サイエンティスト)の平田昭彦が地下の研究室で不気味な実験を行っているというのは、怪奇映画の流れだろうか。
あるいはまた、敗戦から9年しかたっていないということはすなわち作り手も観客も(9歳以上であれば)戦争体験者なわけで、中途半端な破壊描写なんかしたらたちまちそっぽを向かれるということもあったにちがいない。そしてのちの時代の観客たるわれわれには、映っている人のほとんどが「かつて本当に戦争の災禍に遭った人々である」という事実が否応なく突き付けられる。初めて見たときに「まるでドキュメンタリーみたい」と思ったものだけど、みたいどころかこれは実際にドキュメンタリーフィルムでもあるのだ。
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1954年11月公開の『ゴジラ』が記録的大ヒットとなったため直ちに制作が決定し、翌年4月に公開されている。撮影期間は3カ月以下とのこと。すごい。ていうかなんで昔の人はそんなにあせって映画作ってたんだろう。本多猪四郎は別の作品を撮っていたそうで、監督は小田基義。音楽は佐藤勝。
前作の主人公・宝田明がサルベージ船の船員なのに対して、今回の小泉博(と千秋実)は飛行機乗りである(かつて旧海軍の飛行機隊の兵士だった)。彼らは不時着した無人島で復活したゴジラと新しい怪獣が闘っているのを目撃する。さいしょ岩の隙間からちらっとしか見えないのがカッコいい。
大変だってんで本土に戻って警察で対策を練る。山根博士も呼ばれて第1作の映像を「前のゴジラの記録映画だ」といって見せる(ほんとに記録映画に見える)。ゴジラじゃない方はアンキロサウルス通称アンギラスで、非常に好戦的だと説明される。
最初ゴジラとアンギラスは四国の方に上陸するだろうと言われているが、コースを変えて大阪に来る。このへん、すでに怪獣は空襲や原爆のメタファーであることをやめて、台風のような自然災害みたいな扱いになってきている。
前作のゴジラは単独で東京を襲いに来たのだが、今回はアンギラスとの戦いの場所がたまたま大阪だったというテイなので、「オメーらそういうことは他所でやれ他所で」と思ってしまう。「恐怖」というより「迷惑」である。怪獣の戦闘シーンそのものも、なんか妙にチャカチャカした動きなので余計そんな感じがする。ウィキペディアによると、撮影助手の高野宏一氏が指示を間違えちゃったのをそのまま採用した、ということらしい。
結局ゴジラはアンギラスを倒し、いったん海へもどってゆく。このあと廃墟と化した会社を片づける場面があって、こういうのもやはり後年の怪獣映画には見られないよなあと思う。当時の観客はこういうところにリアリティを感じたってことなんだろうなあ。
小泉博と千秋実は大阪の本社が使えなくなったので北海道の支社に移るが、ゴジラもついてくる(わけじゃないけど)。旧軍時代の同期生の航空自衛隊の特別チームがこれを攻撃することになり、二人もこれに加わる。千秋実はフラグを立てて死んでしまい、それをヒントにゴジラを封じ込める作戦が立てられ成功する。
ゴジラが大阪にひきよせられるきっかけが護送車からの囚人の脱走だったり、千秋実に結婚を予定している恋人がいたり、怪獣と関係ない「人間側のドラマ」が描かれるようになった。
小泉博の恋人役の若山セツ子さんという方わたしは知らなかったのだけど、ウィキペディアを見たら不幸な晩年だったようで、それを読んだらなんだか悲しくなってしまいました。
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『モスラ』からカラー作品・関沢新一脚本になる。有島一郎が出てきた瞬間に「あっ、もう人が死んだりする映画じゃないのね」とわかる。主人公の職業は製薬会社の宣伝部員だし、平田昭彦も眼帯をとってスマートな科学者として出てくるし、もはや戦後ではない! という感じ(つーか私の生まれた年の映画である)。浜美枝と若林映子はこれがきっかけでボンドガールに選ばれたのだそうだ。キングコングの島の原住民の描き方は、さすがに今見るとどうなの? という感じ。大ダコに襲われる少年の母親を演じた根岸明美さんがとても妖艶で美しい。
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見る前にウィキペディアで概要を見てみたら、「30年ぶりにゴジラを確認した日本政府は当初パニックを恐れてこれを公表しない。ゴジラに原潜を撃沈されたソビエトが米軍の仕業と勘違いして一気に緊張が高まり、やむなく日本はゴジラの出現を発表するにいたる」というプロットが結構グッときたので期待したのだけれど……。
冒頭に出てくる巨大フナムシがとにかく人をバカにしたような酷さ。この2年前に『遊星からの物体X』があるんですが、スタッフは恥ずかしくなかったんだろうか。日本政府の場面も小林桂樹・小沢栄太郎・金子信雄・鈴木瑞穂と錚々たる面々が出てるのに、脚本が幼稚で見てられない。そういうところに無頓着なのって一時代前の日本映画によくあるような印象なんだけど、どうなんでしょ。そういうところで手を抜いてるわりに武田鉄矢とかかまやつひろしの場面でくだらないお遊びを入れてみたり、客をナメてるとしか思えない。
あと細かいところですが、ゴジラが来て被害を受けつつあるビルの屋上に上ろうとするのにエレベーターに乗って「だめだ、動かない」って言うんだけど、地震や火災などの災害時にはエレベーターは使っちゃダメというのは当時は常識じゃなかったのだろうか。
原発を襲ったあとにゴジラの頭の近くを渡り鳥の群れが飛んでゆくカットや、マリオンの窓ガラスに映り込むゴジラはカッコよかった。いろんな感想を見ると沢口靖子の評判がえらく悪いけど、わたしはそれほど気にならなかった。新人女優なんてあんなもんじゃない? 武田鉄矢のオフザケなんかよりよっぽどいいと思う。
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評判が高いだけあってすごく面白い。ちゃんと数えたわけじゃないけど、ほぼすべての特撮カットにそれに対応する本篇カットがセットになってるんじゃないだろうか(怪獣がビルを壊すと、そのビルの中や回りにいた人たちがワーッてなる)。建物や乗り物の窓から怪獣を捉えるウチビキのカットが非常に多いのも特徴的。スーパーの主婦が卵を落っことしたり、魚市場を逃げる人がぶつかって発泡スチロールケースの魚がばらまかれたりがちょっとスピルバーグっぽい。焼津の港から上陸して市内を歩くゴジラをヒキで撮ったショットもすごい。
しかし、モスラやキングギドラはこれまでとは全く違った設定の怪獣になってしまったので、これの続編は作れないだろうし異端作という感じである。
宇崎竜童って芝居できるんだなあと思った。あとワンシーンだけ出てる有名な役者がいっぱいいる(かとうかず子とか前田愛・亜季姉妹とか)んだけど、これからストーリーにからんでくるみたいに誤解しちゃうので、あーいうのはやめた方がいいと思った。
ラストシーン、海底のゴジラの心臓が再び鼓動を始めるのにゴジラのテーマがかぶさってエンドクレジットになるのがめっちゃカッコいい。あそこだけリピートしてなんべんも見てる。
【映画パンフレット】 シン・ゴジラ SHIN GODZILLA 監督 庵野秀明 キャスト 長谷川博己、竹野内豊、石原さとみ
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