アーロン・ソーキン『ニュースルーム』(2012~2014)

去年の暮れあたりからぼちぼち見ていたのだけど、今週なんとなくスイッチが入ってシーズン3の最後のエピソードまで一気に見てしまった。私なんとなく海外ドラマは(配信でもDVDでも)1日1話ずつ見るのにこだわるくせがあるのだけど、そういう見方よりもいっぺんに通して見た方がやっぱりいろいろいいかもしれん。

データ的なことをおさらいしておくと、"The Newsroom" とはHBO制作で2012-2014年に放送された、架空のケーブルニュース局ACNを舞台とするドラマ。3シーズン、全25回。created by Aaron Sorkinである。

特徴的なのは、実際に起きたニュースを劇中で扱っていることで、そのため必ず「何年何月何日」という字幕があらわれる。たとえば第1回で、スタッフがのんびり仕事をしているところに――

(PCにアラートが入る)ジム「緊急速報だ」
(再びアラート)「失礼ドン、緊急速報だよ」
ドン「黄色だ」
(ジムがパソコンを見る)「ルイジアナ州沖で爆発が」
「海の真ん中で爆発?」
「油田だ。”メキシコ湾で油田爆発”」

すると《2010年4月20日》という字幕がすうっと浮かび上がり……という具合。きっとアメリカの視聴者は「おっ、あの日か!」なんて思うのだろう。このあたり日本人にはいまいちピンと来ないのでちょっと悔しい。メインで扱われる日付と事件は以下のとおり。

S1 ep.1 「アンカーの決断」 2010.4.20 メキシコ湾原油流出事故
S1 ep.2 「新生ニュースナイト」 2010.4.23 アリゾナ州移民法
S1 ep.3 「報道とビジネス」 2010.5.4 タイムズスクエア爆破未遂事件
S1 ep.4 「噂の真相 2011.1.8 ツーソン銃撃事件
S1 ep.5 「ジャーナリストの条件」 2011.2.10 エジプト革命ウィスコンシン闘争
S1 ep.6 「暴走する正義」 2011.4.11 福島原発事故(レベル7に引上げ)
S1 ep.7 「5月1日」 2011.5.1 ビン・ラディン殺害
S1 ep.8 「ザ・停電Part1:内部告発 2011.5.27 ケーシー・アンソニー裁判ウィーナー議員のセクスティング・スキャンダル
S1 ep.9 「ザ・停電Part2:置き去りの夢」 共和党予備選挙米国債債務上限引き上げ問題
S1 ep.10 「世界一偉大な理由」 2011.8.8 有権者ID法
(シーズン2,3についてはおいおい追記)

ドラマの撮影について知識がまったくないのでただの憶測になってしまうが、一部の場面はほとんど一発で通しで撮ってんじゃないかというくらいライブ感が強い。カメラも手持ちカメラが主体で、始終ゆれていたり唐突にズームアップしたり。俳優の台詞がたいていひどく早口なうえに主人公のEPマッケンジーエミリー・モーティマー)のキャラクターが非常にエキセントリックでテンションが高く、見終わるとどっと疲れる。いや面白いんですが。

実際の事件を扱っているだけあって、しばしばあらわれる映像も当時の本物のニュース映像が多い(んだろうと思う、全部わかるわけじゃないけど)。ただ、第6話で登場する福島原発事故の日本のニュースは、隅にNHKというスーパーが入っているがどう見ても本物ではない。というわけで(また推測になるけど)そのNHKというクレジットももしかしたら無断で使っちゃってるんじゃないかなーという気がする。もし正直に許可をもらいに行ったら、あんなウソくさい場面にOKなんか出るはずないと思うのだ。そしてさらに推測を重ねると、それ以外の実際のニュース映像も(フェアユースがどうのこうの、みたいな理屈で)ほとんど無許可だったりするんじゃないかしら。だって、実在の人物の実際の映像にたいして主人公のアンカー(ジェフ・ダニエルズ)がぼろくそに言ったりするんだからね。

第4話「噂の真相」では銃撃された議員が運ばれた病院で亡くなった、という誤報をFOXニュースなどがやらかした話(ほんとのことらしい)が描かれている。これなど、制作のHBOが実際には報道をやっていないという気軽さというか、一種の無責任さからできることなんじゃないかしらと思う。なお、誤報というテーマに関しては第2シーズンでACN自身がとんでもない捏造ニュースを流してしまうという筋立てで、徹底的に描かれることになる。

テレビニュースを題材にした映画というと『ネットワーク』とか『アンカーウーマン』とかが思い出されるが、個人的にはなんといってもジェームズ・ブルックスブロードキャスト・ニュース』がわが心の1本であって、第5話でちゃんとこの映画に言及されていて感動しました。

マギー「映画で見た。テープ運びは障害物だらけ」
ジム「今は2011年。運ばない」
エディター「これは運んでもらうわ。時間かかるから」
ジム「サムドライブを差し込んでコピーしてもってけ」…
マギー(無事に届けて)「州知事の記者会見と教師たちよ。一度も転ばなかった」

またACNの親会社のオーナー、レオナ・ランシングをジェーン・フォンダが演じているが(タイトルにクレジットが出なかったので見ていて「ジェーン・フォンダみたいな顔だな―」とか思っていた)、これも映画『チャイナ・シンドローム』のテレビリポーターを念頭においたキャスティングなんじゃないかという気がする。70年代にリポーターだったジェーン・フォンダが、2010年にはメディア企業の会長になっているというわけである。

このレオナ会長とその息子(クリス・メッシーナ)の社長は、当初「番組の質より視聴率」を主張して(ありがちなシチュエーション)「ニュースナイト」のスタッフと対立する悪役として描かれるのだが、話が進むにつれて対立は解消され、第3シーズンでACNが別のIT企業に買収されるとその新オーナーと闘う同志になってしまう。なんか「宇宙戦艦ヤマト」のデスラー総統みたいな感じ。

全編をつうじて、ゴシップまがいのニュース(「数字の取れる」ニュース)と主人公たちが本当に伝えるべきだと思うニュース(投票の際に判断の材料となるようなニュース)の相克、誤報、捏造、政治家との付き合い方、取材源の秘匿、さらに終盤ではネット社会での報道のあり方、さらに舞台となっている時代に猖獗を極めていた〈ティーパーティ〉に対する激しい批判などがたいへん突っ込んだ描かれ方をしていて、クレームにならないか心配になるくらい(ティーパーティのことを主人公が「アメリカのタリバン」と言ったりするのだ)。ネットで見たところ、このドラマがシーズン3で終了になったのは脚本のアーロン・ソーキンが多忙になったためとあったのだけど、いろいろと差しさわりが出てきたということはなかったのかな?と疑ってしまう(ただお話としてはきちんと終わっているので「打ち切り」という感じはまったくない)。

アーロン・ソーキン本人は民主党支持のはずだけど、主人公は古くからの共和党*1で、本来の共和党とは異質の〈ティーパーティ〉運動に批判的であるという構図で話が進んでいく。今にして思えばまだこの時代は〈ティーパーティ〉で済んでいてよかった、post-truthやfake news、alternative factの跋扈する現在のアメリカをこのドラマが描いたらどうなるんだろうという気が、とてもするのです。



以下小ネタ。

・ネット担当のインド系スタッフ・ニール(『スラムドッグ$ミリオネア』のデーヴ・パテール)は、はじめ雪男の話をやりたいとしつこく提案して即却下されるというコメディリリーフみたいな役回りだったのが、第3シーズンで国防省の機密資料を違法に入手しFBIから逃げなければならないという展開になって、その出世ぶりに胸が熱くなる。

・経済ニュース担当のスローン・サビスを演じるオリヴィア・マンさんはたいへん美人で、検索すると麗しい写真がいっぱい出てきます。

・シリーズ終盤で主人公は、国家機密のニュースソースを明かすことを拒否して拘留されてしまう。そこで同房になった粗暴で無教養な男との対話のシーンが何回かあって、おそらく作者はここに精神分析的な象徴の意味*2をこめているのだろうと思う。で、その一連のやりとりの終わりに主人公が子どもの時に父親と撮った写真がアップになるのです。そこに写っている父親の顔が房で一緒だった男とそっくりに(同じ役者を使っているように)見えたんですが、これちょっと自信がない。

・ABC、NBCCBS、CNN、FOXは言うにおよばずNPRやポリティコ、ブライトバートといった固有名詞がばんばん出てくる。また台詞の中だけですがドナルド・トランプの名前も1回だけ出てきました。

・第1シーズンのタイトルバックに実在のアンカーマン3人の映像が出てくる。最初はエド・マロー、2人目は若い頃のクロンカイトじゃないかなーと思うのだけど3人目が誰かわからない。

・第3話の冒頭、「ニュースナイト2.0」を掲げてアンカーがいきなり演説を始めるのだけど、このドラマが主張しようとしているものをそのままさらけ出していてほとんど愚直にすら見える。

放送ジャーナリストの先駆者ペイリーサーノフ連邦議会とある取引をしました。放送電波を無料で使わせてもらうかわりに公共サービスを提供する。つまり毎晩1時間はニュースを放送すること。”イブニング・ニュース”です。議会はテレビ放送がスポンサーに多大な利益をもたらすことを予測できず、ある条件を付け損ないました。建設的な議論を導いたはずの条件です。”ニュースにスポンサーを付けてはならない”という条件です。議会は放送電波を無料で与えました。夜の1時間だけは――国民のために使えと言い忘れたのです。往年の正真正銘のアンカーたち――マローリーズナーハントリーブリンクリー、バックリー*3クロンカイトラザーラサート、今やそのライバルは私のようなリアリティ番組まがいの報道番組のアンカーです。商売としては順調、でも当番組は一線を画します。偉大なジャーナリストが今も何人か存在します。長年の経験と揺るぎない情熱の持ち主たち。彼らは今や少数意見で、派手なサーカスに太刀打ちできません。惨敗です。私はサーカスを辞めチームを入れ替え、劣勢の彼らに加わります。勝利への信念に心を動かされ、彼らに学びたい。我々は今からこの真理を旨とします。”民主主義では有権者への十分な情報が最重要”。そこでより広い視点から入念に事件の背景を踏まえてお伝えします。我々は事実を重視し、当てこすりやナンセンス・憶測や誇張を排除します。お好みに応じるレストランではないのです。事実のみのコンピューターでもない。人の事情を加味してこそ意義があります。自分の意見も控えませんが、異なる意見もできるだけお伝えするよう努力します。それを決断したのは誰か。マッケンジー・マクヘールと私です。マクヘールは我々のプロデューサーで、100人以上の記者やスタッフアナリストを統率し番組を制作します。私は番組の”制作主幹”で、内容の最終決定をします。この決断をした我々は、マスメディアの精鋭です。

CMのあとニュースをお伝えします。

*1:パパ・ブッシュのスピーチライターだったという設定

*2:ユング心理学でいう「影」とかそんな感じ

*3:ちょっとぐぐってみたんですがこの人は誰なのかわかんなかった